for God’s sake



<2>



早朝、先輩に起こされて、今はバスの中。
昨日、どこへ行くのか尋ねたら、おいおい話すといって、教えてくれなかった。
「先輩、このバスって小倉行きでしたよね?どこへ行くんですか?」
朝早く起こされて、バスに乗せられて、訳がわからない。
「今から、小倉競馬場に行くんだ。麻野、競馬知ってる?」
け、競馬〜?それくらい知ってるよ。今やCMだってバンバン流れてるし。
「知ってますよ?たまにお父さんもやってたし・・・でもあれって学生はダメなんじゃ・・・・・・」
「大丈夫になったんだよ。20過ぎた社会人やプーはよくて学生はダメなんておかしいだろ?」
「そりゃそうですけど・・・」
そういいながら、昨晩の会話を思い出した。
先輩、勘がどうとかって言ってたっけ。
「ま、まさか先輩・・・ぼくに予想をさせる気じゃ・・・」
「当たり〜!お願いっ、麻野、協力して?最近ぜんっぜんダメなんだ!」
先輩の話によると、大学の友人に勧められてハマったらしい。
だけど、馬券を買う額はほんの少しで、毎週二千円に決めているそうだ。
「別に、カネがほしいわけじゃないんだ!予想していく過程が面白くてさ、ミステリーの犯人探しのような感じなんだ」
何かそう説明されると面白そうに思えてきた。
それに、よほどハマっているのか、生き生きと楽しそうに語る先輩を見ていると、こっちまで楽しい気分になる。
「だけどさ、最近当たんないんだよ・・・悔しくてさ。で、麻野のこと思い出して。当たったらおいしいもの食べて帰れるし、それに一緒に競馬って楽しそうだし!」



一緒に・・・楽しそう・・・?
そうだ、今日一日、先輩と一緒に過ごせるんだ!



「先輩、ぜひ頑張りましょう!」
「麻野は馬券買わなくていいから。おれによさそうな馬教えてくれよな?」
それから、先輩の競馬談義が始まった。
競馬は血統だ、血がどんどん受け継がれていくんだ、それがロマンだと、熱弁をふるう先輩。
「おれさ、その友人に競馬のビデオ見せてもらったんだけど、ほんと感動するんだ。ただ、人間の私利私欲のために走ってるだけなのに、なんであんなに感動すんだろ」
ぼくは、たぶん涙もろいほうだ。
特に動物モノに弱い。
先輩が語る馬の物語には、考えられないような馬と人間のドラマがあって、それを熱っぽく語る先輩の話にぼくは引き込まれ、気がつけば目頭が滲んでいた。
そんなぼくの髪をくしゃりをなでる先輩の手が優しくて、くすぐったい気持ちになった。
加えて、こんなにおしゃべりな先輩は初めてで、そんな先輩を知れたことが、とてもうれしかった。
それに・・・なんかとても面白そうなんだ、競馬って。
「なあ、麻野、この中で、どれが勝つと思う?」
先輩は、ぼくにスポーツ新聞を見せて言った。
どうも馬の名前らしい、カタカナが羅列してあり、その下には細かな文字でいろいろ書き込まれている。
1から14までに振り分けられた馬名を眺めた。
「・・・・・・このスイートキャンディって名前かわいいですよね?」
「この8番か〜でも大敗続きで全然人気ないぞ?」
こんな新聞だけでどうやったらわかるんだろ?
先輩に聞くと丁寧に教えてくれた。
「ほら、名前の上に印がついてるだろ?これが専門家の予想なんだ。二重丸が本命、まあ勝つ可能性が高いってやつな。続いて丸、白三角、黒三角・・・かな?ほら、麻野の言ったやつには何にもついてないだろ?」
「ほんとですね。と言うことは、この3番のタニノキングってのがいいってことですか?」
その3番の上には、二重丸が5コも並んでいた。
「で、馬の名前の下に、成績が載ってるんだ。優の8番は、上から13・10・12だから、前が12着、その前が10着、その前が13着ってことな。逆に3番は2・2・2だし、わかるだろ?」
「だけど、それってなかなか勝てないってことですよね?」
ぼくの言葉に「なかなかスルドイな〜」と感心した後、もうすぐ結果わかるから、とにこりと笑った。
しばらくして、ケータイをチェックした先輩は叫び声をあげた。
「麻野っ!8番8番、1着だぜ?ほら!」
う言って液晶画面を見せてくれる。

ほんとだ。8番単勝7580円?どういう意味だろ?
先輩に尋ねると、100円が7580円になるという意味らしい。
「すごいですね、先輩!100円アイスを我慢して、それを買ったら、75個も買えるようになるんですね!」
食べきれないほどのアイス・・・
「そうだよ?もっと頑張れば、寿司だって何だって、海外旅行だって夢じゃないぜ?」
先輩の瞳がキラキラしている。
「やっぱ麻野、おまえの勘、かなりのものだぜ?昼から頑張ろうな!」
先輩に手をギュッと握られて、かぁ〜っとなった。

                                                                       





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